ABC朝日放送テレビ「おはよう朝日です」の40周年記念企画「キリマンジャロ登頂挑戦」
この「登山ほぼ初心者の演者二人と撮影スタッフを、アフリカ大陸最高点まで連れて行く」という、誰もが二の足を踏むであろう(!?)仕事をプロのガイドとして請け負ったのは、好日山荘白馬店に勤務する田中ガイド。
この撮影登山の「裏話」について、語ってもらった本邦初公開(!)エピソードです。
本編は4日間に渡り放送され、局内での社内賞も受賞した”涙と感動のストーリー”の裏側には、
ガイドならではの苦労とそれ以上の達成感があったようです。
※番組内容のネタバレを一部含みますのでご注意ください。
好日山荘の田中ガイドとは?
- 田中 敦(たなかあつし)
- 公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅡ
N.I.A.J(Nature Instructors Academy of Japan)所属>ガイドコラムへ
1975年生まれ。20歳から約13年間海外、特にスイスに駐在して、ヨーロッパ各地の山にお客様をご案内。
帰国後は登山専門の旅行会社に所属して、国内外の山をガイド。
現在は好日山荘白馬店に勤務。
日本の里山からヒマラヤの高峰まで様々な山をガイドした経験を活かしてお客様の登山スタイルに合わせた登山用品をご案内しております。
≪主な海外山行≫
■タンザニア キリマンジャロ(4回)
■ロシア エルブルース(4回)
■南極 ビンソンマシフ
■オーストラリア コジオスコ
■ヨーロッパアルプス 4000m峰12座(モンブラン、マッターホルン等)
≪関連ホームページ・ブログ≫
■好日山荘白馬店
Q1)今回のロケは普段のガイディングとどう違いましたか?
一番はその「目的」でしょうか。
通常の「山頂を目指す」事と、「撮れ高」が全てのロケという部分ですね。
山頂までのリアルな「キリマンジャロ登頂への挑戦」だけではなく、それに加えて良い映像を残さなければならない・・・テレビ局、演者、現地スタッフ、そして私。各人のミッションをすべて満たせるように進めるのは、通常のガイディングには無い大変さでした。
その他にも「所要時間の違い(約1.5倍)」「荷物の重さ(約3倍)」といった、目に見える違いもありました。
今回のキリマンジャロではポーターさんを雇える山なので、体力的な負担は減ります。
そういった意味でも、ポーターさんなしでは今回のロケを成功させることは出来なかったでしょう。
Q2)ピークに向かう際にはカメラマンを兼任しましたが、それに関してのエピソードを
万が一カメラマンさんが登れなくなった時の為にと、キャンプ2(ホロンボハット 3,720m)ではカメラ講習を実施、ディレクター2人と私が受講しました。
内容は・・・
①電源入れる
②フルオートボタンを押す
③録画ボタン押す
以上!!
ロケで一番大変なのは技術さんなんです。5キロのカメラを背負って登らなければいけないカメラさんや、これも同じく重量級のミキサー(音声機材)をお腹側に抱えて登らなければいけない音声さんは本当に大変です。
機材が負担となり過酷な分、結構早い段階でカメラマンさんが脱落するのではないかという予感はしていました。
番組としては、
「誰でもいいから山頂に立つ」
「山頂に立っている映像を撮る」
この2つだけは絶対にはずせないので、ディレクターさんからは
「最悪は田中さん一人で登頂して、スマホで自撮りしてきてください」
と言われていました。
結局岩本アナと登った山頂では、カメラ講習のおかげで急造カメラマンとしては十分に役割を果たせた、と自負しています(笑)
これこそ後日談ですが、あの時もし山頂が逆光だった場合、フルオートでは良い絵は取れなかったそうで偶然順光だったことが幸いしました。
Q3)演者のお2人はプロという事もあり、カメラや喋る事を登りながら意識していたと思いますが、田中ガイドから見てお2人の印象は?
これまでいろいろなロケに同行しましたが、今回が間違いなく演者さんにとっては一番過酷なロケだったと思います。
それでも、番組の趣旨、思惑、重圧を背負ってしんどいながらも声を出し、歩き、文句を言わずに頑張っておられました。
まさにプロフェッショナルなお二人でした。それを見ていただけに正木さんにウフルピークをあきらめてもらう際には本当に辛かったです。
Q4)テレビでの放映はありませんでしたが、下山時のエピソードを何か一つ
岩本さんと私以外のスタッフにはキャンプ3(4,700m)下山後に、我々2人を待たずにキャンプ2(3,720m)まで下山するように指示していました(高山病が進行しないようにするため)
「登頂断念組み」は岩本さんが山頂に立てたかどうかはわからないまま、キャンプ2で待つ事となり、夕方17時半に岩本さんと私がキャンプ2に到着し、登頂成功を伝えるとそこはまさにカーニバル、お祭り騒ぎとなりました。
登頂日の行動時間は、23時~翌日17時と18時間の行動でスタッフさんは全員ヘロヘロだったにも関わらず、達成感に溢れた幸せな夜となりました。
祝杯のビールがありましたが、さすがに飲めない方が数人。
おかげで私はたらふく飲みました。美味しかったー。
最後に
今回キリマンジャロに行くことになったのは、昨年の富士山ロケの際、私が冗談半分で「キリマンジャロなんていいんじゃないですか」と言ったことがきっかけでした。
そんな他愛もない一言がきっかけで、実際に行くことになるとは全く考えていませんでした。
「おは朝の生放送終了後~翌々週の月曜日のおは朝収録に間に合うまでの10日間」
「挑戦のテーマに沿うくらいの過酷なチャレンジ、且つ達成できる可能性が”0%”では無い山」
「登山をしなくとも、視聴者がみんな知っている山」
という条件で合致するのは今回の”キリマンジャロ”しかありませんでした。
企画が通ってから、私はずっと
「キリマンジャロは思っているより過酷ですよ」
「富士山の10倍はしんどいですよ」
「登頂日は人生で一番つらい思いをしますよ」
と脅かしてきました。
放送では関西の低山での練習登山、低酸素室トレーニングだけしか放送されていませんが、実際には私が作成したトレーニングプランを演者さん、ディレクターさん、技術さん全員が真剣に実施してくれました。それが無ければ、登山素人がたった3か月の準備期間で5,000mを超える場所までたどり着くことは出来なかったでしょう。
ただ、登頂後に皆さんに
「田中さんに騙された!!こんなに辛いとは聞いてない!!」と言われ、
「人生で一番つらい日って言ったじゃないですか」と答えると、
「人生で2番目に辛い日との辛さの差が大きすぎる。死ぬほどつらかった」との事でした(笑)
帰国後には「打ち上げするから、大阪に来い!!」と何度も連絡が・・・。
これまで22年間、約2,500日、1万人を超えるお客様をガイドしてきましたが、その中でも一番濃い、思い出に残る登山の一つとなりました。
最後の最後に・・・
「今回のロケにやらせは一切ありません!! ガチでした」
~田中ガイド、言わなくったって視聴された人はみな画面を通してそれは感じてますよ。~
主に撮影に使用したのは?→バーグハウス berghaus (イギリス)
1966年、登山家で、イギリス出身のピーター・ロッキーとゴードン・デイビソンの二人が
自分たちの店で販売するためのギアをデザイン・テスト・製造したのがはじまりです。
クライマーが実際に何を望み、何を必要としているのかを踏まえた、
良質で革新的なウェアラインが「バーグハウス」と名付けられました。
「バーグハウス」という名前は、「山の家」という単語をドイツ語に翻訳した言葉です。
2016年に創立50周年を迎えたバーグハウスは
常にユーザー目線の視点に立ち
デザインと技術開発のイノベーションを追求しています。
この記事を書いたのは「好日山荘 広報室」
好日山荘のあれやこれやを綴ってます。
登山だけにとどまらない”情報発信元”を標榜中。
いい意味で「好日山荘らしくない」雰囲気でやってます