雨を楽しむ。~廃線跡でレイニーハイキング~

雨を楽しむ

梅雨の時期、折角の休みに登山やアウトドアでのアクティビティを計画していたのに、雨で断念せざるを得ない・・・しかも数日間にわたって・・・。

そんな経験ありませんか? 計画が実行できない事もですが、雨で外出できずにずっと室内で過ごす事でフラストレーションが溜まりかねません(特にこのコラムを読まれる方の多くを占める、アウトドア好きの方にはなおのことですね)

そこでオススメしたいのが「レイニーハイキング」です。特別決まった定義はないのですが、「雨降りなら雨でも(安全に)楽しめる場所に行く」「雨そのものを楽しめるようなハイクをする」と言ったところでしょうか。

今回私は、早くも梅雨入りしている兵庫県内で敢えての「雨中ハイク」を楽しんできました。

 

場所はどうするか?

レイニーハイキング当日の予報は、数日間続いた晴れの天候から打って変わって、朝から夕方まで「降水確率80%」が天気予報画面に並ぶ、うってつけ(?)な日に。

今回ハイクを楽しむスポットを選ぶにあたっての基準は、

・公共交通機関で行ける

・アップダウンが少ない

・一時的な大雨になっても、かわせる場所がある

いちばん肝心な事は「リスクを冒してまですることでは無い」です。気軽に行けるけど可能な限りリスクを回避する事が、場所を選ぶにあたっては第一優先事項です。

もちろん現地の直近数日間の天気がどうだったかも調べておきます。またネットで参考程度に現地の最新状況を集めておきます。

今回私がレイニーハイキングの場所として選んだのは、兵庫県の宝塚市と西宮市を跨ぐ「JR福知山線廃線敷」です。

ここは昭和61年に、宝塚と三田との間が複線電化された事によって廃線となった武庫川溪谷沿いの線路で、旧国鉄時代には福知山線として機関車も走っていたという場所。

廃線後は人気のハイキングコースとして知られており、一時閉鎖などを経て2016年に安全対策工事が完了した事をうけて一般開放され現在に至っており、春は桜、秋は紅葉スポットとして関西ではメジャーなハイキングスポットとなっています。

ここを選んだ理由は、先述したスポット選びの基準を満たしているから。

まず駅からのアクセス至便で、およそ15分程度で廃線の入り口にアクセスが可能。

コースの最大標高差は180メートルほどで、アップダウンは非常に緩やか。

雨天時は普段以上に滑りやすくなるので、坂道はスリップのリスクが多く、また泥が流れて歩行困難になる事も。そんな理由から急なアップダウンが極力少ない所を選びたいところ。

そして今回のコースの一番のポイントは、廃線跡なので鉄道用トンネルがコース上に数箇所あるおかげで、例えゲリラ雷雨や突風が吹いてもその中でやり過ごす事が出来ます。

このコースなら、しっかりリスク管理が出来た上で雨のハイキングが楽しめそうです。

 

躊躇わずに楽しむには

スタートはJR福知山線の西宮名塩駅から。ホームに降り立った時点で駅舎の壁や屋根を叩く雨の音がしっかり聞こえます。普段の生活なら「雨か。嫌だな」などと思いながら傘を開いて駅を発つのですが、今日は「雨を楽しむ」なので前向きに躊躇せずに雨の中を歩きだします。

勿論、楽しむ為の準備は怠りません。防水の靴にジャケット、ザックカバーにドライサックetc、しっかり対策を施します。ここで手を抜かない事が楽しむコツです。ちょっとした事が積み重なるとどうしてもストレスを感じます。100%は無理でも、出来る限り自分も道具も濡らさない事は肝心です。

 

普段なら気にしない事を気にしてみる

廃線コース入り口そばの水田には水が張られ、田植えも始まりすっかり初夏。田んぼを叩く雨の水紋を普段はじっくり見る事はないですが、今回は「雨を楽しむ」がテーマですから普段はやらない事を、という訳で暫し水面を見つめているとなんだか心が落ち着き、まったりとしてしまいましたが、ハイクをスタートします。

コース入口から最後まで体感的にはほぼ平坦な道が続きます。右に武庫川の流れ、左には鉄道を通すために造成された法面が聳え立ちます。高い所で5m以上は有ろうかという壁になっていますが、鉄道を安全に運航させるためもあるでしょう、しっかりとコンクリートやレンガで固められており、土砂崩れのリスクは低そうです。しかし、クラックや水抜きの穴から勢いよく水が出てないか等、しっかりと危険を監視しておきます。

レンガやコンクリート、岩などで法面はしっかりとしています

リスク管理を行いながらも、それ以上に雨を楽しもうと色々と探してみます。桜と紅葉で有名な場所ですが季節的に「紫陽花でもあるかな?」と期待しましたが、見当たらず。しかしながら雨に濡れた草木は色が濃く艶やかである事に気付いたり、葉っぱの上の水滴が重さに耐えかねて一気に滑り落ちるさまなどを見て楽しんでいました。

ウツギが咲いていました。茎の断面もチェック。

廃線跡という事もあって、枕木がほぼ全区間でそのまま残されており、トンネル内にはバラストと思しき砂利もゴロゴロ。他にも色々と鉄道営業時代の名残のような人工物を探して楽しみます(これが意外と楽しいです)

とくに鉄道ファンという訳でもない私ですが、廃線跡は時が止まっているかのような雰囲気も。雨に濡れる事で遺構はさらに輝きを増しているように見ようとしてしまう(?)自分がいたりもします。

恐らく、鉄道営業時代の物と思しきモノ達。

 

雨だからのメリット?

廃線跡には数箇所のトンネルがあると書きましたが、これが結構スリリング。ヘッドランプや手持ちライトなどの灯りは必携で、一番長いトンネルは400mを超えておりカーブしたり緩い勾配があったりで、トンネル内は両方の出口が全く見えない(=光が入らない)区間が長かったりします。

光が見えてくると「ホッと」します。

雨が朝から降るこの日は他に歩いている人はゼロ。予想はしていましたが、コース入口から最後の武田尾側の入口まで、全くもって人に会わずでトンネル内でも私のライトの小さな光りだけ。

ちょっとしたスリルは感じますが、これはこれで密集を避けて自分のペースでゆっくりできる「雨だからのメリット」かなと思います。

そして、このトンネルがある事で雷雨や突風が一時的に発生しても、難をかわす事が可能に。実際私も雨がきつくなった時に、雨を避けてトンネル内で休憩がてらジャケットを脱ぎ、ザックカバーを外して水気を掃ったり(これは非常にメリットです。山小屋がない山での雨中登山はこれが出来る所はなかなか無いかも。混みあう東屋でも厳しいですよね)

レイニーハイキングではこういった場所が数箇所あれば安心です。

枕木で出来たベンチが役立ちます。

でも閉所恐怖症の方や暗がりが苦手な方は、ここでのソロハイクはよく検討されて下さい。人のいないトンネルは少し緊張感が漂います・・・。

普段の山登りよりは短めのコースを

良く見るアングルですね。橋の上は水捌けが意外と悪かったり・・・

このコースで最もメジャーでハイライトともいえるスポット「第二武庫川橋梁」を越えればもうすぐハイキングコースは終了ですが、その手前の親水広場で櫻守の会の方が手入れされている木々や植物を楽しんだら、ゴールとなる武田尾駅側の廃線敷入口に到着。親水公園のあとにもトンネルがあり、最後まで楽しませてもらいました。

今回のハイキングデータに関して、スマートフォンアプリの参照数値ですが、歩行距離は8Kmほど、実行動時間(休憩・停滞・観察など除く)は3時間弱でした。感想としては「距離の割に、時間を使っている」です。足元が悪い中、リスク管理をしながらなので歩行ペースはかなり遅くなっていた事が分かりました。結論としては普段の山登りより、時間が掛かる(掛ける)ので、レイニーハイキングに関しては短めにコース設定をすると良いかもしれません。

 

余談ですが親水公園の「桜の園」入り口には、好日山荘100名山の一座「大峰山」の登山口があります。春のお花見日和の時にこの廃線敷の桜を楽しんで、大峰山を登って別コラム「時差登山」で訪れた中山寺を訪れるルートもありかと考えています。そのプランは天気が「とても良い日」に取っておきます。

 

如何でしたでしょうか?雨の日に、敢えてアウトドアを楽しむ「レイニーハイキング」

レイニーハイキングの為にわざわざ遠出せずとも、近所にある森林公園などの大きな公園を雨の日に散策するだけでも、雨の日のアウトドアな雰囲気は十分に楽しめると思います。

「晴れた日にしか登山は行かないよ」という方。普段から用意はしているものの、出番があまりないレイングッズたちを積極的に使ってみる機会にしても良いかもしれません。

皆さんも、雨の季節にリスク管理を行って「レイニーハイキング」を楽しんでみてください。

 

*取材時は万全の感染症対策を講じ、移動時の密集を避けて最小人員での取材を行っております。

好日山荘マガジンライター:菰下 了

 

 

この記事を書いたのは「好日山荘マガジン 編集部」

好日山荘マガジン 編集部

登山・クライミング・キャンプのプロ、好日山荘スタッフによる編集部。あなたのアウトドアライフを応援します!