登山愛好家オススメの山紹介  ”山よろずYouTuber” 石井編(気象予報士)   

初夏の南八ヶ岳

初夏も終わりに近づいてくる5月末頃になると、私は決まってこの南八ヶ岳へ登りに行きます。

行程は毎回同じで、1日目は行者小屋まで入ってテント泊、2日目は硫黄岳~赤岳まで縦走してから下山するルートです。

八ヶ岳は長野県と山梨県の県境に南北約20kmにわたって2,500~3,000m級の山々が連なった総称です。

その環境は夏沢峠を境に南北で大きく異なっていて、北八ヶ岳と呼ばれる北部は深い森で覆われた穏やかな雰囲気のあるエリアであるのに対して、南八ヶ岳と呼ばれる南部は岩稜帯の多いアルパイン要素の多いエリアとなっています。

そもそもこの時期の南八ヶ岳に登り始めたのは、学生時代に入っていたワンダーフォーゲル部がきっかけです。

私が所属していたワンダーフォーゲル部では、毎年5月末から6月上旬頃に新入生の岩場歩行訓練を行っていて、そのフィールドが岩稜帯の多い南八ヶ岳でした。

南八ヶ岳は北アルプスや南アルプスと比べると積雪量が少ないため雪解けも早く、その年にもよりますが、5月末には稜線上の多くの場所で残雪がなくなります。

そのため、比較的早い時期からまるでアルプスのような本格的な岩場歩行訓練ができるのです。

この「本格的な夏山シーズン前に、一足早くアルプスのような岩稜帯を楽しむことができること」が今も南八ヶ岳に登り続ける理由の一つです。

夕日に照らされた南八ヶ岳の稜線。明日歩く稜線を眺めて、登山への期待に胸が膨らみます

 

同じ時期に同じ山に登る魅力

毎年、南八ヶ岳に登り続けていたことで、この時期に登るもう一つの理由が増えました。

それは、同じ時期に同じ山に登ることで、普段の登山では気づかない新たな発見があることです。

例えば、「今年は昨年に比べると樹林帯の残雪が多いな…」「いつもはまだ蕾の花が今年はもう咲いている!」「今年も新緑が綺麗だな…」などなど。

今年の山の様子を過去と比較して、例年と違うことや変わらないことを感じることができるのは、同じ時期に同じ山に登っているからだと思います。

また、同じ山に登り続けることで、このエリアに生息している野生動物に遭遇する確率も高くなったように思います。

特に、八ヶ岳で生息数の多いニホンジカは、午前中に探すと見つかるといった特定のエリアがあったりします。

そんな気づきがあるのも、同じ時期に同じ山に登る楽しさだと思います。

年によっては樹林帯の中では雪が残っていることも。硬くなっているので、軽アイゼンがあると重宝する。

 

こちらを警戒しているニホンジカ。この時期は産まれて間もない小鹿が一緒にいることも多い。

 

初夏の気象面での注意点
さて、ここからは初夏(5月~6月上旬)に登山をする際の気象面の注意点を2つお伝えしたいと思います。

1つ目の注意点は「気温差が大きいこと」。

この頃は冬の冷たい空気から夏の暖かい空気へと空気の入れ替わりが進んでいる時期です。

そのため、5月頃は半袖でも汗ばむような暑い日が現れたかと思えば、上着が必要な肌寒い日になったりと、日によって気温が大きく変化します。

 

そして、この時期の登山においては、低気圧が通過した後の気温低下に注意する必要があります。

低気圧の周囲では低気圧の中心に向かって反時計周りに風が渦を巻いているため、一般的に低気圧の通過前は暖かい南風で気温が上がり、低気圧の通過後は冷たい北風で気温が下がります。

 

特に、発達した低気圧によって風が強いときには、低気圧通過後に気温が大きく下がります。

この気温低下によって2,000mを超えるような標高の高い山では、5月であっても雪が積もることもあります。

日本海に近い北アルプス北部や白山では、低気圧が通過した後に麓の天気予報で晴マークが付いていても、稜線では天気が回復せずに暴風雪になっていることもあるので、特に注意が必要です。

5月下旬の赤岳鉱泉。一晩で銀世界に変わることも…

 

もう1つの注意点はこの時期に発生しやすい「寒冷低気圧」と呼ばれる低気圧です。

この低気圧は動きが遅く、上空に冷たい空気(寒気)を伴っていることが特徴です。上空の寒気の影響で、寒冷低気圧の内部では積乱雲(入道雲や雷雲とも呼ばれます)が発達しやすく、大雨や雷・降雹・突風や竜巻などの激しい現象を引き起こすことがあります。特に寒冷低気圧の南東側では、この傾向は顕著に現れるため注意が必要な現象です。

この寒冷低気圧による激しい現象が起こりやすいかどうかは、あるキーワードに気をつけることで普段の天気予報でも確認することができます。

まず、寒冷低気圧が日本付近にあるかどうか。これは天気予報の解説中に「寒冷低気圧」や「上空に寒気を伴った低気圧」などのキーワードが使われていることから判断できます。

 

また、寒冷低気圧による激しい現象が発生しやすいかどうか。これは同じく天気予報の解説中に「大気が不安定」というキーワードが使われているときには積乱雲による激しい現象に注意が必要になります。

ちなみに、この「大気が不安定」というキーワードはこれから夏にかけて耳にすることが多く、このキーワードが出てきたときには積乱雲が発生して激しい現象になりやすいと判断して良いでしょう。

突然の雨。寒冷低気圧による雨は降ったり止んだりを繰り返すことが多い。

 

 

さて、初夏の気象面での注意点について簡単にお伝えしましたが、もちろんリスクばかりではありません。

この時期は、まだ気温や湿度が高くなく、移動性高気圧に覆われると爽やかな晴天が広がり気持ちの良い登山が楽しめます。

また、動植物も活発に活動し始めるので、木々は新緑の緑が鮮やかになり、鳥や動物に出会う機会も多くなります。

そんな環境の中で登山をすれば、山全体が活気に満ちている雰囲気を楽しむことができるでしょう。

                                                              

石井 洋之

気象予報士

両親の影響で小さい頃からハイキングや自然の中の散策を楽しむ。

本格的に登山にハマったのは、大学で入ったワンダーフォーゲル部で2週間を超える縦走を経験し、日本の山の奥深さを感じたことがきっかけ。それ以来、自然を身近に感じられるテント泊をメインに登山を楽しんでいる。

現在はアクティビティ推進課に勤務。また、Youtubeの好日山荘チャンネルにも出演中。

 

好日山荘チャンネルはコチラ

https://www.youtube.com/channel/UCl2yjJniAQPts8O4VjNg2Dg
(ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!)