好日山荘100名山、97座目「荒船山」をご紹介

画像で見ると、まるで海外の山のよう。

今年(2021年)で創業から97年目を迎える好日山荘が、独自の目線で選定している「好日山荘100名山」。昨年から1年毎に1座を皆さんの投票によって決める「選抜総選挙」を行っております。

今年も皆さんからいただいた沢山の投票で「荒船山」が97座目として選定されました。

ここで荒船山とは?を簡単にご紹介。

”(長野県)佐久市と群馬県下仁田町の県境に跨る標高1,423mの山で、荒波の中を進む船のように見えることから「荒船山」の名がついたといわれます。
妙義荒船佐久高原国定公園に含まれる荒船山は、幅約400m、長さ約2キロメートルにおよぶ溶岩台地は200m弱の垂直な絶壁を持ち、圧倒的な景観を見せます。”
(出典:佐久市ホームページ)

この説明にもある通り、そのインパクトのある山容がメジャーな山で、私も画像では何度も見ており「登るといったいどんな山なのか」がずっと気になっていた一座でもあります。

見た目通りのハードな山なのか、それとも登山者を優しく受け入れてくれる山なのか?

早速登ってきた模様を元にご紹介していきます。

見た目はハード(?)歩くと・・・

この日も気温が上昇する予報の中、朝一番から登山をスタートさせます。今回は最もスタンダードといえるであろう、内山峠の登山口と経塚山を往復するコースを歩きます。

午前6時すぎに内山峠の駐車場をスタート。山の見た目の”いかつさ”からか、意識せずとも少し身構えて登山道を歩きだします。すがすがしい朝の空気のなか、良く整備された登山道を歩き続けます。基本的に一本道となっており分岐もありますが、紛らわしい箇所は無くいたって明瞭。傾斜も程よいアップダウンで、鳥のさえずりを聞きながら、至って快適に山歩きを楽しみます。

登山開始時に感じていた「見た目バイアス」による緊張感もほぐれ、足もすいすいと進む快適なハイクになってきました。

その時、ふと思い出しました。「好日山荘100名山」の選定基準の一つに「初心者を誘って行きやすい山」がある事を。

確かにこの山道なら「キツイ、しんどい、まだ続くの?」という、誘われた初心者が言いがちなフレーズが少なくすみそう。それどころか「歩きやすい、しんどくない、思ったより楽」なんて言葉が出てきそうな感覚。

そう、この山が選ばれた理由はいくつかあるでしょうが、選定基準に乗っ取った理由を自ら体感したのでした。

そして合点がいった所で、すっきり気持ちよく登山を続けます。

でも、山では油断大敵。

快適な登山道を暫し歩くと、第一の見所「鋏岩修験場跡」に到着。日陰でもあるので休憩にも持って来いです。ここから少しづつ、その存在を意識しながら歩いていると「艫岩」(艫とは船の船尾の事)が、木々の合間から見え隠れ。「あの上まで登るのか…」と思うと「急登があるのか?」と予測してしまいます。

鋏岩から先は少しずつ、ガレた所が増えて場所によっては登山道が岩肌となり、その上を水が流れ出しているスリッピーな路面が多くなります。お助けロープが張られるような三点支持マストな箇所も。連れて行った初心者にはしっかりと登り方のお手本を見せて指南してあげる必要があります。

快適な登山道が続いていたので、緊張感が緩んできた頃に集中力が必要な箇所が現れます。やはり登りやすい山とは言え油断は禁物です。

余談ですが、一部の地図やコース案内に「水場」として紹介されている「一杯水」ですが、ここはとても「ちょっと一杯飲もうかな」とか「給水しようかな」という場所ではありません。水場には降りないようにしましょう。危険です。

その先にも、手や顔をすすぐ程度であれば十分な沢があります。

 

「眺望よし」からの、快適な登山道。

その後、笹原に入ると艫岩の展望台はすぐそこ。素晴らしい眺望を堪能できます。

この日は遠くの山々は雲に隠れて見る事が出来ませんでしたが、眼下の牧場や峠道を見ながら、気持ちよい風に吹かれて暫し休憩です。

この艫岩の展望台ですが、柵などが一切ありません。縁には近づかないように景色を楽しんで下さい。特に雨風が強い時は、手前に設置されている方位盤より前には出ない方が良さそうです。

ここまでくればもう頂上台地で、ゆる~く登っていく快適な一本の登山道が続きます。朝のガスと差し込む朝日が神秘的な空間を作り出し、周りに他の登山者もいなかったため、マイペースでゆっくり歩きました。

この登山道は、初心者の方にも快適な山歩きの醍醐味を堪能してもらえそうです。

本当に歩きやすく快適な登山道で、森林浴をしながら距離や時間を全く気にせずただただ気分よく歩く事に集中できる道で、個人的にはこの「経塚山~艫岩展望台」間の登山道がハイライトです。

最高地点はすぐそこ

快適な登山道には見どころも。季節は過ぎてしまいましたがクリンソウの群生地や、昔の言い伝えを示した昭和初期に建立された「皇朝最古修武之地」石碑があります。森林浴ハイキングを続けながら、分岐を経塚山(行塚山)へ。最後にすこしだけ九十九折の急登がありますが、そこを超えれば荒船山の最高地点「経塚山」です。

「やったー、最高地点っ!」なのですが、眺望は有りません。木々の隙間から見える景色も、この日は谷が雲海で埋められていました。

でもせっかく荒船山の一番高い所な訳ですし、他のハイカーもいなかったのでちょっとおやつなんかを食べながら小休止。汗で体が少し冷え始めた頃、来た道を戻り下山です。

どんな山か、が見えてくる

私が下山する時に登ってくる沢山の方とすれ違いました。親子連れやグループなど色んなパーティーやソロの方とすれ違いました。皆さんの装備や歩き方を見ていると、経験を感じさせるエキスパートな方もいれば、最近装備を揃えて山登りを始めたのかな、と思しき方まで様々な方が登っています。

総じて言える事は皆さんお顔に余裕があり、会話を楽しみながら登っている方ばかり。荒船山は心も体も余裕を持って登れる、親しみやすさや登りやすさを感じる山なんだろうな、という事が皆さんの様子で窺い知る事が出来ました。

私も、ぼちぼち歩いて荒船山を楽しみながら登山口まで戻ってきました。

この荒船山、登ってみて「好日山荘100名山」にピッタリな山だと、自信を持ってお伝えする事が出来るようになりました。

好日山荘100名山の選定基準「冬でも登りやすい山」にも、ちゃんとあてはまりそうです。

次は冬に登ってみようと思いながら、荒船山をあとにしました。

荒船山とセットでどうぞ

ここからは「#ちょい旅」気分で、私が実際に荒船山登山とセットで訪れた場所をいくつかご紹介します。

私は今回群馬県側からアクセスしましたが、この登山とセットで訪問したい所ありきでした。

まずは下仁田界隈

群馬といえば、世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」。日本の製糸業を世界トップクラスの水準にまで押し上げる成長に大きく貢献した富岡製糸場と周辺資産は、日本が近代化を果たし、世界と渡り合える国家となる上で重要な礎の一つだった、と言えるのではないでしょうか。

まず訪れたのは、荒船山の内山峠登山口から車ですぐの「荒船風穴」です。

風穴とは、簡単に言うと冬場に冷えた岩に氷雨が流れ氷の柱となって冷風が下に向かって吹き出すという”天然クーラー”。冷風が流れる所は温度計で2℃~10℃(!)と、暑い夏の昼間にホッと一息。岩に近づくだけで冷気を感じます。

この冷気を利用する事で通年での養蚕が可能となり、シルクの大量生産へと繋がった非常に重要な施設。冷風を自らの肌に感じる「体感できる世界遺産」です。

現地ガイドの方に詳しくお聞きしましたが、維持管理がなかなか大変との事。後世に残すためのご尽力に頭が下がる思いでした。

そこから富岡製糸場へと向かう途中、登山でかいた汗を流しましょう、という事で「荒船の湯」でひとっ風呂浴びます。昨年10月にリニューアルオープンしたこちら。コンパクトで必要十分な施設がとても好印象です。休憩所の書籍・雑誌コーナーには山やキャンプ系の読み物が充実している所に、この温泉のユーザー層が見えてきます。

お風呂に入ってさっぱりしたら、ちょっと小腹を満たしていきます。荒船の湯からすぐそこにある「茂木ドライブイン」へ。

 

ここは相当メジャーな食堂(かな?)のようで、外観も店内も見どころが盛り沢山。ここでは下仁田町の名物「こんにゃく」を。主菜にもデザートにもなるこんにゃくですが、ここでの食べ方はシンプルに茹でたこんにゃくを甘辛いお味噌に浸していただきます。

マナーとして「二度づけ」はNGでしょうから、多少多めにお味噌に浸けます。お味はシンプルに味噌田楽ですね。

驚きなのはこのこんにゃく「\200で食べ放題」、私はおとなしく3本だけにしておきました。

冬に来たら、「下仁田ねぎ」をお土産にしたいな、と思いながら茂木ドライブインを後にします。

念願の富岡製糸場

下仁田から富岡市内までは、車で30分ほどで到着。念願だった富岡製糸場とご対面です。まず驚きなのは基本的に同じ建物で操業から115年間、生糸を生産し続けていた事です。操業停止後の30年以上もしっかりと維持管理をしていた事で、創業当初の状態が維持されており今でも見学が可能になっているのでしょう。ありがたい事です。

別の次元の話しですが、普段使う道具などもイイ物は手入れをする事は当然ながら「使い続ける事」が大切である、と再認識させられました。

富岡製糸場では、日本の近代化の幕開け当時の雰囲気を建物や設備から感じ、展示物とガイダンスで当時の様子を知る事が出来ました。長い歴史の時間軸で見れば、私達の生きる現代に比較的近い時代の世界遺産なので、よりリアリティを感じます。

日本が”工業立国”として世界に名を馳せた原点を垣間見れるこの富岡製糸場は、いまの日本を知るうえでは欠かせない世界遺産だと思います。

正直期待以上だったので、「行ってよかった」の一言に尽きます。

時間いっぱい、ギリギリまで施設内を巡りましたが後ろ髪をひかれながら帰路につきます。

車窓から見える妙義山をみながら、次回は妙義山とセットで今回訪れる事が出来なかった「高山社跡」と「田島弥平旧宅」を巡り、富岡製糸場と絹産業遺産群をコンプリートしたいと思います。

*余談ですが、新一万円札の渋沢栄一も富岡製糸場には所縁があります。

如何でしたでしょうか?

好日山荘100名山の97座目「荒船山」とその周辺スポットのご紹介。

先ずは、荒船山に登ろうと思っていただければ嬉しいですが、登山とセットで麓やその地域の名所などを巡る事もお勧めしています。

文中にも書きましたが、好日山荘100名山の選定基準には「初心者を誘って行きやすい山」があります。

好日山荘100名山と登山以外の見所や美味しい物などをセットにして、初心者の方を山登りに誘ってみませんか?

 

好日山荘マガジンライター:菰下 了

*取材時は感染症対策をとり、密集・密接を避けて行動をしております。

好日山荘スタッフがお届けする、荒船山の登山レポートはこちらから。

この記事を書いたのは「好日山荘マガジン 編集部」

好日山荘マガジン 編集部

登山・クライミング・キャンプのプロ、好日山荘スタッフによる編集部。あなたのアウトドアライフを応援します!