#ちょい旅 湖西連峰と浜松探訪 ~後編~

 

登山を楽しんだ山の麓でここにしかない魅力を独自の目線で紹介する「ちょい旅」。今回は静岡県のなかでも西に位置する浜松。企画をしはじめた2年ほど前に見つけたのは浜松と浜名湖の魅力を伝える「浜松・浜名湖ちょい旅ガイド」でした。偶然にも「ちょい旅」というワードでつながってびっくり。そちらのサイトのなかに浜松注染染めの「手ぬぐい染体験」を発見!手ぬぐいを毎日使う私が行かない訳にはいきません。ということでここから旅がスタートいたします。ぜひお付き合いください!

手ぬぐいの産地「浜松」

浴衣生地からはじまった手ぬぐいはとても鮮やかな染めもの。その手ぬぐいの産地の三大地域と知られているのは、東京、大阪、そして糸へんの街で織物や染物も盛んな浜松。水が豊富なことや「遠州のからっ風」と呼ばれる強い風も吹き、染め物にも適していている土地柄が理由と言われています。自分の使っているも手ぬぐいの表と裏の柄が両面綺麗に染まっていることが気になって調べたことがあるのは随分前のこと。実際にその染め方「注染」を体験できるのはとてもワクワクします。

二橋染工場さんで念願の手ぬぐい染体験

今回の体験のために訪れたのは、浜松市中区にある1927年創業の「株式会社二橋染工場」。社長の二橋教正さんにお出迎えいただき、工場に近づいていくと大きな袋と樽が積み上がっていました。

染め前の工程に使用する糊を作る作業場となっていて、ベントナイトという粘土やもち米、海藻などを独自で配合しているそうです。独特の磯の香りに似た香りが立ち込めていたのは原料のひとつの海藻が由来しているようです。
手ぬぐいの柄のもととなる型紙は、三重の伊勢でつくられています。網のような絹素材と水をはじく柿渋で染められた紙の組み合わせで出来ています。
注染とは

明治時代に生まれた日本独特の染色技法で、文字通り染料を「薬灌(ヤカン)」という道具を使って、注いで染めます。もともと手染めの職人が一か所に生地を重ねて型を置いて染めれば、もっと効率よくたくさんの生地を一度に染められるだろうと考案された、職人の発想から生み出された染色技法。染められた生地は、手染めならではの色のボカシやゆらぎが特徴で、糸の芯まで直接注いで染め上げるため色に深みがあり、生地を裏表なく染めることができます。天日干しされた生地はこの地域独特の強い風「からっ風」に揉まれて渇くことで肌ざわりがよく、使うほど柔らかい風合いが出てきます。注染は自然環境のなかで職人の豊かな発想と手仕事によって生まれた染め物なのです。【出典:株式会社二橋染工場】

 

注染は「板場(いたば)」「紺屋(こうや)」「水元(みずもと)」それぞれの工程ごとに職人が作業をします。職人の手仕事のつらなりによってひとつの染物が出来上がっていきます。

■板場(いたば)

~糊置き~ 型紙を生地の上にのせ、さらにその上からヘラを使い、防染糊をつけていきます。

型に糊をつける工程の糊置き。生地に一枚ずつ、型紙を置いた上から防染糊をへらで滑らせていきます。これを枚数分繰り返す。つながった生地も力をかけすぎると歪んでしまうため、そっと扱います。その生地をずれないように折り返すのも緊張します。ヘラの方向け具合でも糊の付き具合が変化するので今回体験した45センチの長さを同じ力で均一に糊を付けるだけでもとても難しい。写真からも力んでいるのが分かります。木のヘラの親指近くのくぼんたところは職人さんが長年使い続けて削れてへこんだもの。職人さんはやっぱりすごい。

■紺屋(こうや)

~注染~ 板場で糊置きされた生地を染めていきます。染料は専用の道具である「薬灌(ヤカン)」で注いで染めます。色を差し分けるときは防染糊を絞り出して「土手」という囲いを作り、隣り合った色が混ざらないようそこに注ぎ込んで染めます。

糊置きをしたあと、防染糊がとれないように、おがくずをかけます。その後、型紙に沿って防染糊で「土手」を作っていきます。色んな色で染める柄になっている場合、隣り合った違う色との境目を作ります。染料を流し込む前にお菓子作りの生クリームを絞り出すようにしていけば、上手くいくかと思いきや、同じ太さに絞れない!
土手が完成したら、1か所ずつ染料を注ぎ込みます。薬灌の先はシュッとしていて、細く注ぐことができる形状。ぼかして染めたい場合は土手のなかに2色を同時に注ぐことで実現します。注ぐたびに下からバキュームで染料を吸い込み、重ねた生地の一番底まで染まるようにしっかりと染料を入れ込みます。土手から染料が流れちゃう!と焦りは禁物です。
体験で薬灌に入った8種類の染料。好きな色を選ぶのですが希望の色が無い場合は、2、3色を配合しいくつか色を作っていただいて染めました。
すべての染料を流し入れ、外側の縁にも色を付けて染料をすべて入れた状態。失敗したところも気になるところですが、染めは完成。このあと水洗いします。

■水元(みずもと)

~水洗い~ 染まり終わった生地は余分な染料や糊を洗って落とします。

一度洗うとこんなに鮮やかな生地が出来上がっていました!注いでいる透明の液体は染めを留めるためのもの。糊が乗っていたところがまだ完全には取れていないのでこの後さらに洗います。
工場内にある人工的な川に設置された半自動で動く機械にかけて、しっかり洗います。

■高干し

~乾燥~ 洗い終えた生地は高さ7mの丸太にかけ、天日干しにして風に着かれて乾燥させます。丸太は戦後、廃材を譲ってもらったものを今でも使っています。

高さ7m!まさに「高干し」です。ロープに手ぬぐいをひっかけて、上に登ってロープを上げて広げて長く垂らして干します。風通しが良い作りになっていて、浴衣の生地もゆらゆら自然の風で乾かされて気持ちよさそう。

■いよいよ完成!

長い生地をカットして、出来上がり!
手ぬぐいが出来上がって、記念写真をパチリ!朝早くから昼前まで長時間ありがとうございました!気さくにお話してくださった社長さんは、好日山荘をご存知いただいており、お若いころからのお客さまでした。ありがとうございます。今回の体験ではいくつか気になる部分があったのが心残りなので、リベンジします!大好きな富士山や静岡の名産品がいっぱいデザインされた染められた手ぬぐい、大事に使います。
今回の体験は、2名から、7日前までに予約が必要になります。詳しい内容はこちらから → 浜松・浜名湖ちょい旅ガイド 二橋染工場手ぬぐい染体験 https://hamamatsu-daisuki.net/hamanako-choitabi/220/

みなさん、手ぬぐいを持ってますか?友人にプレゼントした時にどうやって使うの?と言われ、手ぬぐいがなくてはならない存在の私にとっては衝撃的な一言でした。その名の通り手を拭いたり、首に巻いたり、温泉に持って行ったり、お食事のランチョンマット代わりに使ったり、プレゼントのラッピングに使ったり…無限大∞!記念品などのまとまった数だと、個人で手ぬぐいをオーダーできるそう。手ぬぐい好きな方、結婚式の引き出物、還暦祝い、百名山登頂記念などにいかがですか?

株式会社二橋染工場 http://www.nihashi-tinta.co.jp/

職人さんの技が見れる!二橋染工場インスタグラム https://www.instagram.com/nihashisenkou/

左上:毎年、オリジナルで干支の手ぬぐいを制作されています。阪神タイガーズファンの私は思わず2柄ゲット! 右上:浜松市中区にある1927年創業の「株式会社二橋染工場」。見逃してしまいそうなほど控えめな看板 左下:注染の浴衣は糸そのものが染まるため、風通しが良く、乾きも早くて着心地がいいそうです。浴衣生地がたくさん積み上げられていました。いつか自分用の浴衣も作ってみたい。 右下:気分の上がる前掛けをお借りしました!浜松注染そめは静岡県指定郷土工芸品として指定されています。

 

 

浜松で訪れておきたいスポット

今回浜松を訪れるにあたり、初めて知った浜松ならではの場所を時間の許す限り巡ってきました。守備範囲広がる!?超個人的オススメです!

かんざんじロープウェイ

日本で唯一湖上を渡るロープウェイ。浜名湖パルパルという地元で愛される遊園地から浜名湖を渡って向こう岸の大草山へ渡ることのできます。浜名湖の上を移動するのは不思議な気分。一度は体験してみて欲しい!

渡った先には展望台があり、浜名湖を360度見渡せます。浜名湖オルゴールミュージアムが併設されており、屋上にはオルゴールの原点でもあるカリヨン(組鐘)がその季節と時間にあった曲を毎時00分に演奏してくれます。美しい景色は恋人たちの聖地♡
展望台からは湖西連峰を浜名湖側からみることができました。
静岡に来るとどこに見えてるかな?とキョロキョロさがしてしまうのは私だけではないはず。富士山は頭だけみせてくれました。

かんざんじロープウェイ   https://www.kanzanji-ropeway.jp/

中田島砂丘

日本三大砂丘のひとつ「中田島砂丘」今回下調べするまで知らなかったんですが、ロケ地としても有名で、浜松まつりの際には恒例の一大イベント「凧揚げ合戦」がすぐ隣で行なわれる有名な場所です。

入口からアプローチが長いですがまっすぐ歩いていくと、最後の急な坂で砂に足がとられそうになりますが、海と砂丘ならではの景色が見えます!
のぼり切るとこの景色!絶景です!凧が揚がっているところを見てみたい!
左上:砂丘の砂が風に流されてしまうのを防ぐための「堆砂垣」。右上:「堆砂垣」があることによって砂が積み重なり、砂丘の高さを調整しています。 左下:「風紋」自然に出来た造形美。 右下:砂丘までの道で見つけた凧糸の広告。この場所ならでは。
駐車場の閉門時間に近づき、夕日の沈むところまで見ることが叶わず残念でしたが、とてもきれいな一日の終わりを迎えることができました。

中田島砂丘 https://www.inhamamatsu.com/japanese/activity/nakatajima-dune.php

 

航空自衛隊浜松広報館エアーパーク

航空自衛隊 浜松飛行場に隣接する広報施設。歴代の装備品の展示や航空自衛隊を知ることができ。実際に離発着する航空機を見ることができるのも人気。

上:ブルーインパルスの機体も展示されファン必見! 左下:かわいくて思わずカメラにおさめたカエルは航空自衛隊三沢基地のロゴ。 右下:ご当地お土産も見逃せません。やきとりの缶詰のほていとのコラボ商品「からあげ」の缶詰。静岡の名産品三日日みかんと蒲焼味。山ごはんにもぴったりです!

航空自衛隊浜松広報館エアーパーク https://www.mod.go.jp/asdf/airpark/

食いしん坊を満たす浜松のおいしいもの(極私的オススメ)

■うなぎ藤田

中心地から少し離れた落ち着いた店構えの「うなぎ藤田 浜松店」。明治時代に長野の割烹料理店に新鮮な浜名湖のうなぎを行商したことがはじまり。

藤田のかば焼きは背開きした関東流蒲焼。素焼きしたうなぎを、じっくり蒸し備長炭で焼き上げる(店内メニューより引用)150mからくみ上げたの冷たい清らかな地下水に約1週間泳がせる「活かし込み」という工程で臭みのない身がぐっと引き締まって弾力のある身質に仕上げることができる。焼き上がったうなぎはぱりっ、ふわっ、です。

うなぎ藤田 http://www.unagifujita.com/

■まるたや洋菓子店

1949年、創業70年を超える浜松の洋菓子店。毎日職人達が1つ1つ丁寧に心を込めて手作りしている味はなぜか懐かしく感じます。チーズケーキがとても人気。

10年以上前に浜松に初めて行った際に駅のお土産売り場で偶然見つけた「あげ潮」。とにかく食べだしたらとまらない触感のクッキー。ぜひ一度ご賞味いただきたいです。チョコ味はバレンタイン時期の限定品。
左上:パッケージデザインが素晴らしい!なんだか楽しくなる雰囲気が御菓子にも通じるものがあります。秋田県の建築設計士の山内 泉氏デザイン。お土産に買って帰ったのは、右上:ふんわり、ポイントに入ったレーズンがおいしい「スイスロール」と下:チョコ好きにはたまらない「ケースをショコラ」どちらもシンプルで飽きのこない味。また食べたい!

まるたや https://www.marutaya.net/

■厳邑堂(がんゆうどう)

150年以上に渡り時代の変化や幾多の危機を乗り越えながらも、人々の生活にぬくもりや和みをお届けするべく和菓子を作り続けている老舗。丁寧に作られたものは作品のように美しいです。包装のマークも一度見たら忘れられないデザインが素敵。

浜松駅前近くにあるお蕎麦屋さん「なるそば」のオーナーおすすめのどらやき。こぶりでしっとり甘さ控えめ。

厳邑堂 https://ganyuudou.com/

■氷箱里

本格広東点心などが楽しめます。韮饅頭が看板メニュー。なんと神戸にテイクアウト専門店の支店あったとは!驚きました!

ビルの5階にある知る人ぞ知る?人気店。お酒好きには紹興酒の飲み比べセット。スイーツに目がない方は杏仁豆腐はいかがでしょうか。

氷箱里 http://www.bing-xiang-li.com/

神戸にある支店肉包焼売専門店 老青記 https://www.instagram.com/rouseiki/

■手打ち蕎麦 naru

今回の旅では行くことが叶わなかったのですが、以前浜松を訪れた際に伺い自分好みのお店でとても落ち着いておそばをいただいた記憶です。くるみのたれでいただいたのも風味がとても良くて気に入りました。オリジナルの手ぬぐいもシックな色目で愛用しています。外出が出来ない時期にはお取り寄せもしたことがあり、また必ず行きたいお店。浜松に行かれる際にはぜひおすすめしたいお店のひとつです。そば粉のパンケーキミックスも発売されており、こちらも美味!

上:数年前、店舗で実際に食べたランチ。下左:2020年にお蕎麦をお取り寄せした時に届いた箱を開けたところ。右下:山内武志さんデザインの手ぬぐい「そば猪口とそば」

自家製粉 手打ちそば naru  https://www.narusoba.com/

今度訪れた時に行きたい場所

■浜松市秋野不矩(あきの・ふく)美術館 画家の秋野不矩さんは地元二俣町出身。最大の特徴は、靴を脱いで鑑賞するということ。建築の設計は藤森 照信氏。 https://www.akinofuku-museum.jp/

■キルフェボン 季節のフルーツがたくさんのったタルトは全国区で有名。本店は浜松なんです。 https://www.quil-fait-bon.com/shop/?tsp=6

■本田宗一郎ものづくり伝承館 車好き、ホンダ好きには外せない場所。 https://honda-densyokan.com/

■今回体験した手ぬぐい染め体験のほかにも遠州木綿体験やパラグライダーなどのアウトドアでたのしめる気になる体験プランがたくさん!浜松へのちょい旅、是非プランニングして見ては?浜松市サイトちょい旅 https://hamamatsu-daisuki.net/hamanako-choitabi/

取材日:2022年3月14日、15日 感染対策を講じ、安全安心な登山・旅を心がけ取材を行いました。

Special Thanks●二橋染工場株式会社、公益財団法人 浜松・浜名湖ツーリズムビューロー

文&編集●関本 亜紀

写真●加藤 智二、関本 亜紀

好日山荘100名山 湖西連峰(神石山、葦毛湿原)の登山の前編はこちらから。

#ちょい旅 湖西連峰と浜松探訪 ~前編~

この記事を書いたのは「好日山荘マガジン 編集部」

好日山荘マガジン 編集部

登山・クライミング・キャンプのプロ、好日山荘スタッフによる編集部。あなたのアウトドアライフを応援します!