近場で、みんなで、山歩き。二上山で気分転換(好日山荘100名山)

低山の季節

気温が下がり、朝は霜が降りるこの季節。朝起きる事が億劫になりがちですが、寒さに打ち勝ち布団から出れたらば、あとは登山口へ向かうだけ。動けば動くほど体が温まる寒い季節こそ、山登りを快適に楽しめるシーズンと言えるのではないでしょうか?

しかも近場なら、そんなに早起きしなくても大丈夫。家族や仲間を連れ出して、ベストシーズンの低山に出かけましょう、というテーマでお送りします。

この季節だから

今回登ったのは奈良県と大阪府にまたがる「二上山」(好日山荘100名山) 日帰りハイキングスポットが多い金剛山地の中でもハイカーの多いメジャーな山という印象です。

二上山って?

雄岳と雌岳が寄り添って並ぶ二上山。雄岳の頂上には、父帝、天武天皇が崩御した後、謀反の罪で命を落とした大津皇子が眠っている。
そんな悲劇を忘れさせるほど美しく、奈良盆地のどこからでも眺められる山として二上山は昔から人々に愛されてきた。

【出典:奈良県観光公式サイト】

標高は一番高い「雄岳」で約515メートル。夏は登山をするには”暑すぎる”事が容易に想像できます。

余談ですが、私は夏に登るには暑くて自分の体がオーバーヒートしそうな山に関しては、高い山に雪がしっかり積もり”雪山”となるまでの晩秋期間を使って登ったりしています。

今回の二上山も秋に登ろうとリストアップしていた一座。

やっぱり低山は、秋から冬もしくは冬から春がベストですね。

歩きやすい

近鉄南大阪線の二上山駅から歩き始めます。住宅街を抜けて登山口へ。10分程度の歩行で程よく体が温まります。

因みに今回は「みんなで登ろう」をテーマにしていますので、子供からご年配の方までが無理なく楽しめるか、という目線でこのコラムは書いております。

そういった目線で見ると、アプローチが短い事は重要ポイントかと・・・。

登山口すぐから、足元には松の枯れ葉が。一歩一歩の足への負担も軽く、足が着地する時はフワッとした感覚でスイスイと”歩”が進みます。

”松”に癒される

松の枯れ葉で覆い尽くされた登山道は、幅も広く傾斜も緩く、万人に優しい道となっています。そんな中を歩いていて暫くしてから気付いたのですが、マスクを通り越して何やら優しい香りを感じます。

 

人が周囲にいない事を確認してからマスクを外した瞬間、松の葉の香りが辺り一面に広がっていました。こんな風に立ち止まって木々の匂いを吸い込むように呼吸をしたのは、いつ以来かな?と考えてしまいました。

五感で自然の癒しを感じる事はきっと、老若男女問わずにプラスに働くはず。これは世代を超えて共感できる楽しみ方だと思います。

しかもこれだけ落葉していれば「松葉相撲」が、し放題! シンプルでいて奥が深く体力や性別の差が出ない遊びは、お子さんやお孫さんなどと平等に盛り上がれそうです。

もう、すぐそこ。

松林をぬけ整備された登山道、子どもと登っている位のペースで階段をゆっくり上ると、キツイ斜度もなくゆるゆると登れます。6合目の休憩スポットでは、奈良県側に広がる盆地や鈴鹿山脈を遠望しながら水分を補給し、息を整えます(そんなには乱れてないのですが…)

しっかり休憩したら、大津皇子二上山墓そして雄岳山頂を目指して登山を再開。斜度は少しだけキツくなりますが、「ぼちぼち息が上がってきたな」ぐらいの距離感で大津皇子のお墓と葛木二上神社に到着。そして雄岳の山頂もすぐそこ。

低山ならではの「あっ」と言う間の感覚で、最高地点まで辿りつきました。

これなら、子供からは「飽きた」年配の方からは「遠い」と言われないかな、と思われます。

「みんなが楽しめる」がある山頂。

雄岳山頂は眺望もないので、雌岳へと歩き始めます。雄岳山頂からは下って行くのみ、大阪平野を横目に、山頂広場へはすぐに到着です。

ここには大きな日時計があり、広くなだらかな整備された広場となっています。奈良盆地を眺めながらお弁当を楽しむ方で賑わいます。

広場の周りにはモミジに椿、春は桜も咲くようで、植物を愛でたい方にはいい場所です。またこの広場のすぐ下にある万葉広場も、秋にはさざんかが咲き誇るとの事。それぞれの時季で楽しみがありそう。

そこそこの人がいる中ではありましたが、子どもたちが気兼ねなく走ったり遊んだりできる空間があります。

山ごはんやコーヒータイムをのんびりと楽しんだり、昼寝をしたり、眺望や植物を楽しんだり、ただひたすら駆け回ったり(子供だけでしょうが…)と、どんな人と行っても楽しみ方のバリエーションがあって良いな、と思える広場です。

登りが早いなら、下りも。

雌岳の山頂広場からは、下って行く一方です。途中に懐かしさを感じる展望台で大阪平野側の景色や、木々が色づく周りの山並みを楽しんだら、これまたあっという間で到着する国の史跡「岩屋」へ。未だに謎の多い石窟寺院。分からないからこその神秘を感じようと試みてみます。

その後は祐泉寺方面へと下りますが、こちらの植生は雄岳への登りと異なり、シダが生え苔むした水気を感じる登山道です。

登山口にある祐泉寺まではすぐ到着。短い時間で十二分に楽しめるハイキングでした。

思う事は・・・。

「特別である必要はない」を感じたエピソードを。

雄岳に登っている途中の登山道にて、私が色々と写真を撮っていると、前方から来た方に「そんなに珍しい物がある?」と聞かれました。

少し話してみると、その方は地元にお住まいで、毎日のように散歩で登っているとの事で「別に特別な物はないでしょ?」と茶目っ気たっぷりにお話しされてました。

その方と別れた後、山は万物と同様でどれ一つとして同じ物は無いから楽しいのであって、ハイキングとはその行為やその対象に特別感を求めなくても、出かけるだけで非日常の世界に入り込める素晴らしい遊びだな、という気づきを貰えました。

わざわざ遠出をしなくても、自宅近くの里山や低山でも十分に自然とふれあい楽しむ事ができます(しかも秋冬は暑くないし、虫も殆どいない!!)

お休みの朝のほんの数時間でも十分に楽しめて、心も身体もリフレッシュされる低山ハイキング、おすすめです。そして年齢や体力、スキルに左右されないのが何よりです。

心とお腹をチューニング。

ハイキングで身体をリフレッシュしたら、心を整えに一路”當麻寺”へ。途中で「傘堂」を見学。真柱一本で瓦葺の屋根を支えており、その名の通り、傘を開いているような珍しい造りです。

そこから當麻寺はすぐそこ、広い境内の中をぐるっと巡ってお目当ての中之坊へ。

今回はこちらで「写仏」を体験します。これまで写経は何度か体験していましたが、写仏は初めて。

手を清め写仏道場の曼陀羅にお祈りをしたら、写経同様で心を「無」にして筆を滑らせます。

この写仏道場からは中之坊のお庭が眺める事ができて、天井には有名画伯による「昭和の天井絵」「平成の天井絵」が飾られており、写仏・写経体験だけでなく、外を眺めたり天井を仰ぎみるだけでも静かで心落ち着く時間が流れます。

写仏体験を終え、心が整ったら今回のハイキングの締めは名物を頂いて終了です。

ハイキングで疲れた体には、老若男女問わずに甘いものがおススメ。甘いものが嫌いな方はさほど多くないかと。世代を問わず共有できる楽しみ、ですね。

今回訪れたのは、帰りの電車に乗る「当麻駅」(近鉄南大阪線)から徒歩十秒ほどにある「中将堂本舗」さん。

こちらの名物は一口サイズのよもぎ餅にあんこを乗せて、牡丹の花びらをかたどった、”中将餅”です。

しっとりしたあんこに、よもぎの香りを仄かに感じる中将餅は、体を動かし心を整えた後の格別のご褒美に。お餅だけのつもりが、ついつい冬期限定のよもぎ餅のぜんざいも平らげ冷えた体も温まりました。

因みに屋号と名物に冠せられた「中将」とは、写仏体験をした當麻寺をはじめこの地にゆかりのある奈良時代の藤原家の郎女「中将姫」から来ています。さらに當麻寺は春の頃は牡丹の花で有名なお寺でもあります。

*中将姫と二上山にはちょっとしたストーリーがあります。ここでは割愛しますが、興味のある方は調べてみて下さい。

忙しい時こそ

皆さんもサクッと登れる、体力レベルに差がある人同士でも登りやすい、そんな近場の山に出かけませんか?

例えば年末年始など忙しい時でも、朝の2~3時間で充分に登れる近所の山だと、気構えせずにさらっと行きやすいと思います。

こころも身体もリフレッシュ。午後からの時間も頭がすっきりして有効に使えるようになるかもしれません。

 

*春の桜の様子から積雪した登山道まで、好日山荘スタッフによる二上山の登山レポートはこちらから。

好日山荘マガジンライター:菰下 了

 

*取材は、感染症対策を行い密集を避けて行動しております。

 

この記事を書いたのは「好日山荘マガジン 編集部」

好日山荘マガジン 編集部

登山・クライミング・キャンプのプロ、好日山荘スタッフによる編集部。あなたのアウトドアライフを応援します!