~登山ガイドが ”現場”から伝えます ~ 久々に登山をされる方へ

どんなに「勝手知ったる」な事でも、暫く時間があいて久しぶりにやってみると、体は正直なもので時間があいた分だけ、しんどさやキツさを感じてしまいます。自分で思っている以上に体に負荷がかかる登山ではそれが顕著です。

このコラムでは好日山荘登山学校の田中敦ガイドが、登山のブランクがある方や登山に向けて普段からのトレーニングを知りたい方に向けてお届けする内容です。

 

春に向けて登山を再開する方、久しぶりの登山に行ったら「こんなにキツかった??」となった方、必見です。

 

登山ガイドが山で見た「実際の問題」とは?

2021年、コロナ感染症の拡大が落ち着いている時期に開催された「登山学校実技講座」で案内したお客様の中には、コロナ過で外出を自粛していた方や、登山は自粛したが健康維持のためウオーキング・ジョギングは定期的に行っていた方など、感染症拡大前の普段と比較して運動量が少なくなってしまった方が多くいらっしゃいました。実際にそういった方々の久しぶりの登山の様子を拝見すると、

直ぐに息が上がってしまう、

疲れてペースが上がらない、

足ががくがく震えてしまう、

が多く、皆さん「こんなはずはない」「これくらいの山ならいつも余裕なのに」というお声が・・・。

ウォーキングやランニングでは(自らでペースを変えない限りは)心拍数の上げ下げが少なく、また登山の登りのような重力に逆らって自分の身体を持ち上げる、下りのような重力によって運動エネルギーが大きくなった自分の身体を支えるといった運動や動作が少ない事から、「定期的にウォーキングやランニングをしているから、登山でも大丈夫」とはなりません。場合によっては怪我をしたり、下山が困難になってしまうといった事も起こりえます。

他には運動不足で身体が固くなって、肉離れや、健を損傷・断裂してしまう方が平時よりは多くなると想像できます。

恥ずかしながら、かくいう私も2021年は、下腿の肉離れ、腰痛(後に骨折が判明)があり、ガイド→整骨院→ガイド→鍼灸→ガイド→湯治と身体のケアにお金と時間がかかった年でした・・・。

そんな事にならない為にも、自分の身体のチェックも含めてのストレッチ、体幹トレーニング、そして重力に逆らう運動を日常的に行っておくと良いでしょう。

登山ブランクのある方に、登山にむけたトレーニングをご紹介。

まず、第一に『登山に向けたトレーニングは「登山が一番」』と声を大にしてお伝えしたいです。

登山道には起伏がある為、どうしても心拍数は上下します。また、重力に逆らい戦うという運動は登山でしか実践することができません。お勧めの方法はシンプル。1時間くらいで登り下りできるような簡単な山から始めて、少しずつ距離、時間、難易度を上げていくことです。お出かけを自粛されていた方にとっては、数時間で歩ける近所の里山でもとても新鮮な気持ちになりますよ。

とは言っても、定期的には山に行けない方も多いと思います。そんな方にはやはりストレッチ、体幹トレーニング、昇降運動がお薦めです。ストレッチをあまりやったことが無い方は、一度スポーツトレーナーや理学療法士さんにご自身の体のどこが固いか、どのようなストレッチが適しているか、を教えてもらう事をお薦めします。我流よりも格段に効果が高いです。

体幹トレーニングは、あまり難しいものではなく、プランク、片足バランスと言ったインナーマッスルを鍛え・整えながらバランス能力が向上するようなメニューが良いでしょう。バランスボール、バランスクッションを使うと楽しみながら運動できるのでお薦めです。

昇降運動はスクワットや踏み台昇降と言った筋トレが良いですが、体幹トレーニングやバランストレーニングと違って、筋トレは辛いので、なかなか長続きしません。そんな方には「1アップ、2ダウン」です。 なんだと思われますか?

これは、日常から1階分はエレベーター、エスカレーターを使わないで階段で登る、2階分は階段で下るという自己ルール作りです。余裕があれば2アップ、3ダウンと数を増やすのも良いでしょう。注意点としては、筋力トレーニングという意味では下りは大きなトレーニングにはならず、反対に身体へのダメージも大きくなる為、慢性的に膝や腰が痛い方は登りだけにして、下りは文明の利器に頼りましょう。

単純なウオーキング、ランニングでも、スピードの上げ下げを付けるインターバル法やアップダウンのあるコースを選ぶだけで、登山に近い運動になるでしょう。

最後に、これまでの私の怪我や失敗体験も含めてお伝えすると、登山当日の準備運動は必ず行いましょう。登山の準備運動というと、身体を伸ばすストレッチをイメージされる方が多いですが、ストレッチは日常的に行っておき、登山当日に関しては身体を暖めるための運動をする事をお薦めします。結局、登山前の準備運動に適している運動は何?となるかと思いますが、 答えはズバリ「登山」です!!

登山前に準備運動で登山??なんのこっちゃですね。

何かというと、いきなり運動負荷の大きいスピードで登り始めるのではなく、初めの10分~20分は決して急がず、意識してゆっくりと歩くことが大切です。20分歩いて、身体が温まってから軽くストレッチ。

そこから登山がスタート!!

この方法にすると、怪我予防と時間短縮(登山口から直ぐに行動開始するので)の一石二鳥です。

 

【田中敦ガイド】

田中敦とは?(本人筆)

『山好きの父親の影響で、物心がつく前から登山、スキーを始めました。
学生時代も勉強はそこそこにスポーツばかりしていたこともあって、己の体力と知識を活かすため卒業後すぐにガイド業を始める。
オセアニア、ヨーロッパを転々としながら日本からのお客様をお迎えして登山、スキーと山をご案内してきました。
日本からガイド兼ツアーリーダーとして世界各地の山にお客様をご案内。
現在は、好日山荘登山学校講師 普段は好日山荘白馬店に勤務。
ヒマラヤの高峰から高尾山までを案内した経験を活かして、正しく、楽しくお客様に学んでいただけるように活動しています。』

 

執筆・画像:田中 敦

構成・編集:好日山荘マガジン編集部 菰下 了

この記事を書いたのは「好日山荘マガジン 編集部」

好日山荘マガジン 編集部

登山・クライミング・キャンプのプロ、好日山荘スタッフによる編集部。あなたのアウトドアライフを応援します!