冬ならではの景色を見に ~雪山に行ってみよう Vol.1~【氷ノ山】

まずは始めてみる

「雪山での登山」と聞くと、どのようなイメージでしょう。

「技術や体力、経験値が必要」とか「行ってみたいけど装備が」とか、いろいろ踏みだす前に思慮してしまいがちかもしれません。

もっと言うと冬場は雪山どころか、登山自体を「お休み」する人が多いのも事実です。

今回は雪山登山に慣れ親しんでいない方や冬は登山をお休みする方に、ちょっとでも興味をもってもらいたい、雪の山へと先ず一歩踏み出してもらいたい、さらにはそこで得られる対価として、山に入らないと見る事が出来ない景色を堪能してほしい、と考えてこのコラムを書いております。

始めやすい所から無理なくボチボチやりましょう、がテーマです。

どこへ? モチベーションは?

今回のコラムを書くにあたって設定したルールは、

①「はじめての人でも比較的楽に雪山体験が可能」

②「冬の山ならではの景色が楽しめる場所へ」

としています。「登ったからには」と意地でも(?)山頂を踏む必要はないですし、ピークをゴールにはしていません。

一番重視したのはタイトルにもある「冬の山ならではの景色」を見に行く事で、それを念頭に場所とアプローチを決めています。

今回私が選んだのは兵庫県の最高峰「氷ノ山」です。県下でも豪雪地帯で有名なエリアで、周辺にはスキー場も沢山。

今回はそのスキー場のリフトを活用して標高を稼ぎます。

そして、冬山ならではの雪や氷の世界を見せてくれる山でもあります。

今回定義したルールの両方にピッタリとマッチした山でもあり、四季を通じて多くの登山者を魅了する山なのです。

喧騒と静寂のギャップ

スタートは”わかさ高原氷ノ山スキー場”。ここのベースで入山届を出したら、リフト回数券を握りしめリフトへ。平日とはいえシーズン中のスキー場は老若男女で賑わっています。この時ベースから氷ノ山方面を見上げると空にはガスが垂れ込めており、天気予報を見ても「晴れ」や「眺望」とはほど遠い予報・・・ それはさておきリフトに乗車、搬器から賑わうスキー場のコースを見下ろします。

リフトを二本乗り継ぐとゲレンデトップに到着、リフトは運行しているのですがスキー場最上部からのコースはこの日はクローズ。リフト係の方以外は誰もおらず、とても静か。さっきまでの賑やかなゲレンデベースから一気に、普段の朝一の登山口のような静けさを感じる場所に連れてこられました。あまりのギャップの大きさに、いつもの登山以上に「今から山に入るんだ」を意識してしまいます。

この静けさも雪山の良さの一つです。

準備が出来たら新雪が10cm程積もった森の中へと進みます。

森の中は冬そのもの

雪は舞っていますが、外気温は0℃ちょうど。歩き出すとすぐに暑くなる事が予測できます。

インサレーションウェアを脱ぎ、ベースレイヤーの上はベンチレーションを全開にした薄手のシェル。

「標高の高くない雪山ならレインウェアでも良い」とよく言われますが、ジャケットもパンツもベンチレーション付きの物の方が必要以上の発汗や結露を抑えてくれるので、おすすめです。

昨日までのものと思しきトレースをありがたく活用し、木々の間を抜けていきます。ここで注意したいのは、トレースを活用する事は体力の温存には効果的ですが、こまめに自分の位置と進むべきルートは確認しておいて下さい。「人が通った道=自分の行く方向」とは限りません。

また、雪山ではルートファインディングも然りですが、思ったペースで進めない、停滞を余儀なくされる、なども「想定範囲内」とし、登山地図やアプリで表記されている一般的な行動時間よりもかかる事を念頭に、いつも以上に余裕を持った計画を立てて下さい。

森の中は静かで自分の歩く音や、木の枝から落ちる雪の音、木々をすり抜けてくる風の音しか聞こえません。周りに目を配ると粗氷や樹氷、ツリーホール、張出した雪庇…まさに冬の山ならではの景色が楽しめます。木々に近づく時はツリーホールにハマらないように注意したい所です(特に木などの植物を接写しようとした時にありがちです)

森の中を楽しんだら、稜線へと出ます。そこから先に今回最も見たかった「冬らしい景色」が待っているはずです。

いよいよメインとご対面。

ガスが立ち込める稜線は、遠望がききません。現在地を確認しながら歩きますが、ここでも冬ならではの景色。森の中とはまた様相が変わり、風が吹きつける稜線上にはシュカブラやウインドリップが。意図や意思を持たずに素敵な造形物を作り出す自然現象に毎度の事ながら感動です。しかも期間限定、ともすれば数時間後には形を変えている物も沢山ある訳です。

「冬しか見れない」どころか「今この瞬間しか見れない」と言っても過言ではありません。

そして、ガスが切れないまま本日の最低限の目標としていた「三ノ丸」に到着。少し来た道を戻り、東屋で休憩。暖かいラーメンや飲み物が喉を通る感覚が心地よく、ほっとします。ここでも外気温は0℃、至って快適な気温感。地図と天気予報を交互に見ながら下山までの時間を逆算。天候の好転を期待し暫し停滞。ですが雲は切れそうにありません。

「天候次第では氷ノ山山頂まで足を伸ばそう」と考えていましたが、冒頭に書いた通り山頂に行く事は最初から頭にありませんので、それはさっさと諦めて、最も見たかったものを見る為に再スタート。三ノ丸を越えたその先で待っていたのは、

 

樹氷です。

樹氷は樹氷でも「スノーモンスター」が見たい!と意気込んでやって来ていたので、稜線上で事前に目星を付けていたところへ、

 

・・・「成長過程中」とでも言いましょうか。もっさりしている途中です。

このまま融けずに成長してほしいのですが、「融けて→再氷結」が見てとれる木も・・・この冬はどこまで成長するでしょうか?

 

色んな形で雪がついており、これもまた自然の造形美。一本一本見上げてウロウロ。ここでもツリーホールに注意です。大きな木ほどツリーホールも大きく深くなりがちです。ハマらないように足元にはご注意を。

充分に堪能したら、「山頂獲り」はしませんので来た道を戻ります。この時、ピストンでの行程であれば自分の来た跡をたどって引き返すケースもあるでしょうが、必ず現在地と進行方向の確認は行ってください。自分のトレースが風と雪によって消えてしまっている時もあります。雪山では常に自分の現在地と目的地との関係性をマメに確認するようにして下さい。

稜線を歩いていると、思いがけずほんの一瞬晴れ間が・・・

光りがあたると樹氷の美しさは増します。「下山中や下山後に天気がよくなりがち」 これ、”雪山あるある”ですね。

来た道を戻り、森を抜けたら朝と同じリフトの終点駅に。ここからはスキー場のコース脇を歩いて下山しますが、颯爽と滑るスキーやスノーボードが羨ましい事は間違いありませんでした。

ちょっとした事ですが

雪山での登山は、リスク管理が雪のない山よりも増えますが、その分楽しみも増します。

冬の山でしか見れないような自然現象が沢山、夏のように登山者で大混雑する事も稀、山で食べるカップ麺の美味しさに夏よりさらに気付く(!?)等々、いつもの登山以上の非日常体験がそこにはあります。

慣れてきたら、雪のテーブル&チェアを作ったり、雪洞を掘ったりと雪の山でしか出来ない楽しみも沢山。

まだ雪山登山が未体験の方、先ずは登りやすい山で自分の技量内で出来る事(例えばスノーシューで森を散策など)から楽しんでみては如何でしょうか?

そして今回のようにスキーリフトやロープウェイ利用でアクセスできる山だと、体力を温存し時間も読みやすくなるのでこういった山から始める事もお勧めです。

今までにない楽しさと自然の美しさに、きっと気づくはずです。

~好日山荘の「登山レポート」で見る、ロープウェイ・リフトアクセスで楽しむ雪の山~

■霧ヶ峰の最高峰、車山

■千畳敷カールが観光地としても有名、木曽駒ヶ岳

■四国でも雪はたっぷり、石鎚山

*ご自分のスキルに合わせて、お楽しみ下さい。

初心者にお勧めの雪山や装備の事などは、雪の楽しみ方を知っているお店のスタッフにも是非聞いてみて下さい。

 

好日山荘マガジンライター:菰下 了

*取材は、感染症対策を行い密集を避けて行動しております。